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連載コラム

その7 ファントム族


当たり前の事を何でもかんでも言う奴が総理は嫌いだった。

そういう人間は本質を見ないからだ。

中学の時初めて、社会の授業でピカソの絵「ゲルニカ」を見たときクラスの男子が「めっちゃ下手やん!」と言った。

総理は中学一年の頃からこういう発言をする人間が嫌いだ。
そういう人間は物事の奥にある本質を見ようとしないからだ。

中学生活で聞こえてくる、奴等のアホな発言

例えば

雪を触り「つめたーーーい!!!!」
当たり前だ。雪は冷たいものなのだ。
一曲15分の曲を見つけ「長過ぎやろ笑」
当たり前だ、わざとやっているのがわからないのか?。
新幹線に乗って「普通電車より早いな!」
当たり前だ、だから新幹線なのだ。
人の夢を聞いては「将来考えてるな!」
そういうことにはならん、アホ。
カレーを見て「茶色いな!!!」
当たり前だ、それは普段水色のカレーを食べてる奴が言う発言だ。
月を見て「なんか、小さく見えるな!」
当たり前だ、遠いからだ。
俺を見て「総理やん!!!」
は??

こういう寿命の無駄にも値する会話をする人間が総理は嫌いだ。しかし、
「愛情の裏返しは無関心、嫌いは好きと紙一重」そんな言葉を象徴するかのごとく
そんな奴等の発言を軽蔑していた総理は、その反面、奴等の発言に研究対象としての興味を持っていたのだ。ある日を境に
総理は彼等の生態について研究するためノート何冊にも彼らの発言をまとめた。
そして面白いことに気づく。

それは、彼等は俗に言う「深い話」ということができない種族なのだ。

表面的な情報に全神経を集中して注目してしまうので、なぜそうなのか?誰がこうしたのか?なぜそう感じるか?などのような本質に踏み込む会話ができないのだ。

その事に気づいてから総理はさらにその種族の言動を細かく注意し、この表面的な部分しか見ない人間たちを「ファントム(幻想)族」と名付けた。

ファントム族は、非常に面白い生き物で
些細な事に言及する。
例えば、電車が遅延していると駅中にアナウンスが流れてるのに「遅れてるやんけ」
とか、カップルを見るとほぼ100%「リア充や」とか、
ファントム族は当たり前すぎて誰もがいちいち言及しないことに対して
言わないと気が済まない。いやっ、言ってることにも自覚がないのかもしれない。そう総理は考察していた。

総理は中学の頃よく、絵を描いていた。
抽象画やダダリズム、キュビズム(ぱっと見ではなにを書いているか分かりにくい絵)が好きだったので、それをキャンパスや落書きで描いていた。
ある日総理が昼休みにキャンパスにシュールな抽象画を書いていると

総理と同じクラスの大木という男子が近づいてきた。

総理は大木がファントム族である事を知っていたので、自分の絵を見た第一声が何であるか知っていた。

大木は総理の一般的には理解しにくい絵を見てこう言った。

「 へんな絵やなー、もっとわかりやすく描いたらええのに」

総理は分析の結果、その様な発言が来ることを予想していたのだが、まだ中学生の総理は大した知識もないくせに自分の絵に言及してくるファントム族にその日は腹が立った。

そして痛感した
これだから、ファントム族は嫌いなのだ。
当たり前なのだ、わざとなのだ、わざと写実画のようなキレイで俗に言う上手な絵をわざと描いていないのだ。人に理解されるために絵を描いているのではないのだ、絵を見る側の知識や感性によってはこの絵も分かりやすい絵になることもあるのだ、キレイに描いては伝わらないものがある、キレイさや上手さを削ってまで伝えたい何かがある事に気づかないのだ。
だいたい芸術において分かりやすいだけの絵になんの意味があるのだ?お前はそんなふうに考えた事があるのか?
表面的な事ばかりに言及しやがって、、、この馬鹿は、、、

総理はその時ばかりはさすがに名誉の為と、苛立ちの発散のために説明した。
なぜ綺麗に描いていないのか、まず表現とは何かについて。10分くらいだろう、少し熱くなってしまったせいか、大木が頻繁に時計に目をやっていることに気づいてなかった。一通り説明した総理は我に返り、大木の注意が話に向いていないことに気付いた。その瞬間「やってしまった!!!」恐怖に駆られた。そう、大木はファントム族。深い話はできない種族なのに、圧倒的に深い話をしてしまったのだ、そんな労力を割いて熱く語った代償に返っってくるものなど無いと知っているのにも関わらず熱弁してしまったのだ。しかも、総理は知っていたのだ。ファントム族が何かを熱弁した人にどの様な返しをするかを。

くるっ、くる、、くる!!!!

あの言葉が!!!

大木の口が開くのがスローモーションに見えた、
恐ろしいあの言葉が!!!!

総理は覚悟した。

「熱いなぁ。」

この言葉を言われた瞬間、総理は敗北感を感じた。

内容は一切無視されて、熱く語っているという表面だけ見られてしまった。

もちろん、「熱いなぁ」という返しが来ることは分かっていたが。

ここまで予想通りにくると逆に気持ちよかったのだが。
こいつはもファントム族の族長だ。もう、ファントム族の長なのだ。こんな典型的なファントムピーポーはいない。族長の中の族長だ。
そういや、ゲルニカの絵を見たとき開口一番に「めっちゃ下手やん!笑」と言ったのもこの大木だった。
こいつはキングオブファントムだ。

この日を境に、総理はファントム族と一切話をしなくなった。労力の無駄だからだ。中学を卒業し、そのまた高校に進学した。しかし一つ奇妙な事が起こっていたのだ。

「えっ奇妙な事ってなにそれ!」

ほらきた。

「今日のコラム長ない!?」

前々回の方が長いよ

「早く教えてよ!」
私は、「まぁ待てと答える」

私が誰と話しているかお分かりだろうか。

そう、ほんとうに残念なことに、
ファントム族が総理の脳内に住んでしまったのだ。

なにをする時もファントム族がいちいち、チャチャを入れてくる
当たり前すぎて誰も言わないような言葉を総理に投げてくるのだ。
一週間くらいはなんとか追い出そうとして頑張ったものの
9日目には諦めていた。だから総理はいま一人ではなく頭の中の住人としてのファントム族と同棲しているのだ。

総理は、明日朝一の新幹線に乗って東京に向かうので夜10時過ぎは寝床に着いた。

ファントム族が大学生になった総理にまたいつものように語りかける

「寝るの早ない!?」

まぁ、けど世の中にファントム族は多くいるであろうから
その代表的な意見を自分の行動に対していち早くもらえるという意味では良いのかもしれない。

総理はその住民に対して「ファントム大木」と名付けている。

特にそこに敬意はない。

最近は一周回って少し可愛くなり、たまに、返事をしてやっている。

「明日朝早いからね。」

映画はまだ流れ続けている

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